「お前、律義だな。」
放課後の教室、俺と高崎美玖は適当な机に腰掛けていた。
「そりゃ、カナちゃんとはそれなりに仲いいし、遊んだこともなかったし。」
日下部佳奈理の暇潰しに付き合わされるということは、大多数の人間に変人と認識されることだ。
廊下のタイルの枚数を数えてたり、学校中の画鋲の総数を数える人間がいたら俺だってそう思う。
「…ミク、お前は今修羅の道の寸前にいる。まだ帰れるぞ、引き返せ。」
「…何?その私を関わらせたくない〜みたいな感じは?」
ミクの目が細くなって俺を睨む。不機嫌になったときの癖だ。
「へー、私は仲間外れなんだ。二人で仲良く遊んでたいんだ。」
「いや、お前は何を…」
言っている、と続けようとした所に日下部がやってきた。
「で、カナちゃん。何をするの?」
「宝探しです。」
「…宝ぁ?」
日下部はかなり満足した顔でうなずく。
「まさか宝の地図を見つけた、とかじゃないだろうな?そんなのは偽物だって相場が…」
「いいえ、宝物については明確ですから。」
ちょい、と日下部が俺の鞄を指差す。
「笠木くんの和菓子パックです。」
「なにぃ!?」
一瞬で自分の鞄の元へ。
「ていうかヒロ、あんた学校にそんなもの。」
鞄の中には筆記用具のみ。教科書は机の中だ。
あれ?
「本当にねぇ!?」
「えぇ、隠しましたし。」
さらりと日下部が言う。
「腹か?腹の中にか?お前も俺の糖分を奪うのか?」
ちなみに略奪一号のミクは呆れたような視線で俺たちを見ている。
「大丈夫です、置いて来ただけですから。」
「どこにだ!?」
「落ち着きなさいって。」
がつん、と俺の頭に硬い物が叩き付けられる。
「つまり、そのヒロの宝物を探すのね?」
「私は素晴らしい宝を隠したわけです、キャプテン・カナリの秘宝を探せ!というわけですよ。」
「確実に俺の財産だろうが!」
俺はかなりの勢いで起き上がった。今まで床に倒れこんでいたのだ。
「あら、早い復活ね。」
「ミク、教科書の角は本気で凶器だからやめてくれ。」
そして、一瞬目を離した隙に日下部の姿は消えていた。一枚の紙を残して。
「こそこそと退場するカナちゃんがいるけど呼び止めちゃ悪いのかな。」
「きっと忍者のように消えたイメージなんだろ、放っといてやれ。」
紙にはこうあった。
『普段は見ない場所』