王国暦683年
戦争の翌年…
僕は生まれた…
決して裕福ではないけれど、優しい父さん、母さんに囲まれてとても幸せだった。
母さんは戦争に巻き込まれて両脚が不自由だった。
でも母さんはその事を全く悲しんではいなかった。
父さんといつも笑顔で僕を温かく包んでくれた。
ずっとこんな日が続くと信じて疑わなかった。
そんなある日、僕は近所をずっと散歩していた。
暇でしょうがなかったのだ。
少し路地に入ったところに近所の女の子がしゃがんで泣いていた。
「どうしたの?」
僕は優しく声を掛けた。
「…ミーちゃんが、ミーちゃんがっ…」
なんとか聞こえる程度の声で女の子は言った。
女の子は自分の前に置かれているダンボール箱を震える指で差した。
僕はそっとダンボール箱を開けた。
中には黒い子猫がいた。グッタリしてピクリとも動かない。どうやら死んでしまったらしい。
幼かった僕は、泣きじゃくる女の子になんて言えばいいのかわからなかった。
僕は女の子の頭に手を置き、そっと撫でることしか出来なかった。
その時だった。女の子の頭に乗せた手から…得体の知れない[何か]がズズズっと僕の中に入り込んできた。