同日午後―\r
テンペ=ホイフェ=クダグニンは二人の暴漢に襲われていた。
前には右手にナイフを持った男が、後からは両手に棍棒を握った男が、じりじりと距離を詰めて少女を挟み込もうとしている。
こちらを見据える四対の目は、如何にも凶悪そうだ。
祖国の衣装を身に纏ったテンペは、怯む事なく身構えた。
古地球時代からの伝統を引き継ぐ胡服を機能的にアレンジした物だ。
鮮やかな青い長衣と純白のズボンとは、彼女の同行者とほぼ一致した組み合わせだった。
太めの白銀の帯を腰に巻きしめ、セミロングの髪も後ろにきつく束ねている。
ふと、前の男がジャブの要領でナイフを突き出して来た。
テンペはそれをかわしざま、相手の胸元まで一気に潜り込み、
『えやあ!』
その腕を両手で掴み、一本背負いで地面に叩き付けた。
軽いうめき声とナイフの転がる乾いた金属音が辺りに響き、少女はすぐに後を振り向いたが―\r
『きゃあ!』
視界はすぐさま男の上身で塞がれ、振り降ろされた棍棒は、思わず目を瞑ってしまった彼女の漆黒の頭髪の天辺に当たり―そしてそのまま止まってしまった。
『ああっ…ダメダメ!』
すると、今しがた格闘していた男達の姿は、一瞬にして消滅し―\r
『二0代の男二人位、どうにかなるだろ』
良く知った声と姿が、入れ替わりに膝をすくませ力無く地に着いてしまった少女に寄って来た。
『なる分け無いわよ!』
相変わらず立ち上がれないまま、両手で痛くもない頭を押さえ出したテンペは、口だけは元気を保っているみたいだった。
格闘シュミレーション=プログラムのチップを自身のパネルカードから引き抜いたリクは
『そんなんで白兵戦部隊に攻撃されたらどうする?』
『来る分けないでしょ!?そんな物騒な物!』
そう、彼女に戦闘のイロハを叩き込んでいる最中なのだ。
今や彼の住居に面する玉石敷き詰めた和風庭園の一角は、教練の場と化してるのだ。
『大体パレオスに降りても、厳重な警備を付けてくれるってグィツチャルディーニ議長が言ってくれているんだし、大丈夫よ』
ようやく落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がった国家監察官は両手で上衣やズボンの裾を払いながら、不平を言った。
『二00年間も平和な国の警備を当て込む方がどうかしているぜ』
観戦武官としては、単身彼女を送り出すには、やはり一抹の不安が有ったのだ。