元来、他教徒に対し差別的感情を持っていたヒス教徒の一部は孤立し軍事力を高めていく。
殺傷を禁じるはずのアブ教徒も、やむを得ず軍事力を強化していく。
この対立の最中、ヒス教徒の中で圧倒的権力を握った者がいる。それがこの男ジャン・ワドル。
元々、他教徒に対する差別意識が異常に強く、自己を特別な存在だと幼少の頃から思い込み、この混乱に乗じて上り詰める。
攻撃的な思想、自教に対する忠誠、他教徒に対する弾圧を全面に押し出し反アブ教のリーダー的存在となる。
対するアブ教も対ヒス教との全面戦争に向け準備を進めるが、平和を司どる賢者として崇拝される最高司祭ラマの反発もありヒス教に対する攻撃には踏みとどまった。
その後も長い戦争は続き今に至る。
最前線では激しい銃撃戦が行われ、毎日多数の死者が出ている。
失われる命あれば、新たに誕生する命もまた。
ここは、アブ教信者の多く住むポーラという貧困街。全ての人間は平等と銘打つアブ教にも貧富の差は存在する。そのせいか、この辺りはスラムと化し、無秩序で治安も悪い。
そんな街の中にある小さな病院で、彼は産み落とされた。
「急げ!急げ!このままじゃ母子共に危険だ」
「母親バイタル急低下!危険な状態です!」
「頭見えた!引っ張れ!引っ張れ!チクショウ!早く出てきやがれ!」
「よし!出たぞ!母親は!?」
「心停止です!」
「クソっ!心臓マッサージ、早くしろ」「先生!赤ちゃん息してません!」
「叩け!叩け!」
彼の運命は、壮絶に幕を開ける…