幾等平和ボケした国とは言え、流石にパレオスSPや官憲まで無能な分けではないだろう。
だがそれは飽くまで国内の犯罪やテロに対した場合に限った話だ。
『良いかテンペ。今回は最悪、星間諸侯の憎悪を買うかも知れないんだ』
じゃりじゃりと玉石を踏みしめ、リクは国家監察官に歩み寄みながら説明してやった。
『武装興信が出て来る可能性もある』
『武装興信!?』
『私設スパイだ。金次第で何でもやる』
リクの解答は実に明確だった。
『強いの?』
自分のすぐ目の前で足を止めて対面した同胞にテンペは割と真剣に問うた。
『ピンキリだがなあ。だが、太子党がブチ切れたら金に糸目はつけないだろう』
やや長くなった頭髪を掻き揚げながら、リクはさらりと言ってやった。
『元特殊部隊とかはざらだし、そこら辺の軍人より出来る奴もゴロゴロいるぜ!?』
威しではなかった。
だが、少女はまともに威された様な表情を見せた。
『そんな、困るわよ!スナイパーに狙われたりとかする分け!?』
両拳をぐっと握って震わせながら、今更ながらに驚愕をぶつけてくるタレント志望者に、少年は吹き出すのを必死でこらえながら、
『だからもう少し身を入れろ』
せいぜい真面目な様子を取り繕った。
『じゃあ俺が見本を見してやるよ』
リク=ウル=カルンダハラはさっきの格闘プログラムのチップをパネルカードに挿し込み、再び3Dホロを起動させて玉石の上に置いた。
『…えええっ!?』
両手を口に当てて、テンペは思わず声の音程を外してしまった。
あの暴漢二人に挟まれるまでは全く同じ展開だったが、横向きに立ち左右の目で敵手を見据えた観戦武官は、相手が襲いかかる直前で軽く真後ろへとステップしたのだ!
両者のナイフと棍棒が交差して―お互いの胸と頭部を鮮やかなまでに捕えて、彼等は同士撃ちして果てたのだ。
この間、僅か一三秒―手も脚も使わずリクは二人を始末したのだ。
戦闘能力喪失判定が出され、うつ伏せに倒れたままの暴漢逹の映像がかき消される中、
『すごおいっつ!リクって強かったんだあ』
『何だと思ってたんだよ』
パネルカードを懐にしまう観戦武官は、無遠慮なはしゃぎ声を浴びせられて、少し不機嫌になった。