「春」というものは、美しく暖かいものでしょうか?
いいえ、そんな日ばかりとは限りません。時には、なごり雪が山々を真っ白くぬりかえるような日寒い日もございます。
「お母さん」というものは、マリア様のごとく慈悲深いものでございましょうか?
いいえ、そんな時ばかりとは限りません。時には、他人よりも冷酷に変貌するものでございます。
「おにぎり」というものは、ありがたく美味しいものでございましょうか?
いいえ、そうばかりとも限りません。時には、そう、悲しいおにぎりもあるのでございます。
〜悲しいおにぎり〜
「ただいま!」
お父さんの声に誰よりも早く気が付くのは、この春5歳になったばかりのももちゃんです。お父さんは、小さいももちゃんをひょいと抱え、洋服ダンスの前でネクタイをゆるめます。洋服ダンスの鏡には、お父さんに抱かれこぼれんばかりの笑顔のももちゃんが、いつも映っておりました。
そんなある日、お母さんがももちゃんにこんなことを聞きました。「ねぇ、ももちゃん。ももちゃんは、お父さんとお母さんのどちらが好き?」