リクの隣に並んだ相手は、彼とほぼ同い年位だろうか。
白桃色の肌をした、快活にして可憐さに満ちた実に魅力的な少女だった。
天然繊維製のスラックスに薄手のトレーナーと言う簡素で身軽な服装を着こなし、手や顔は小振りな造形をしていた。
茶色の眉目を持ち、それと同色の頭髪は、後ろを勢い良く上向きに波打たせて、個性を際立たせている。
『あら、自己紹介が遅れましたね。私はニー・ウー伯爵公女、マエリーよ』
『失礼しました。自分は共和国宙邦・観戦武官首席リク=ウル=カルンダハラです』
挨拶しながら少年は内心驚いた物だ。
(こいつ太子党なのか!?何故ここに…)
そう思いながらも伯爵令嬢に一礼してさっさと立ち去ろうと背を向けた少年に、
『待って』
マエリーはすぐさま呼び止めた。
『共和国宙邦《グルン》の人何て始めて会ったわ!今暇なの?』
『ええ、今日は』
『丁度お昼でしょ?色々話をしたいわ。ねえ、私おごるからランチ一緒にしない?お店は貴方に合わせるわ』
屈託のない笑顔を見せられて、リクは断り切れなかった。
『まあ、ランチ位なら』
『じゃあ、決まりね』
口と手が同時に動いて少年は掴まれた左腕をぐいと引っ張られた。
同じ区画を十分弱連れ立って、二人は和食店の一つに入った。
靴を脱いで畳座敷に上がり、彼等は衝立で仕切られた一番奥の席へ案内された。
『ここが貴方の行き着け?なかなか良いセンスしてるじゃない』
藁編みの座布団に座ったマエリーは、どうやら気に入ったみたいだ。
(これ知ったら、テンペ怒るだろうな)
一方観戦武官は気が気ではなかった。
別に恋愛意識が有るわけでも無いのに、こう言う事になると、何故か女は焼きもちを焼く物らしい。
特に国家監察官の場合はその傾向がかなり酷いのだ。
それに、リクとしては立場も事情も色々微妙な時期の最中にある。
端的に言えば、太子党側が早くも探りを入れて来た―その位の警戒心を抱いてもあながち被害妄想とも言い切れないのだ。
『ねえ、何食べる?』
しかし、マエリーの様子は相変わらずざっくばらんだ。
からかう様に少年に高級和紙に墨で筆書きされた御品書きを付き突けて、笑顔を絶やさない。
『ああ…すみません』
何処かふてぶてしい風格も毒気も、その様子にあっけなく抜かれてしまうのだ。