今まで大人しかった警官の面が鬼の形相に変わる。
「立場をわきまえろつってんだろ犯罪者!とりあえず刑事さんて呼べよな、刑事さんて」
怒鳴られてしまった。
「……………」
うっかり口を滑らさないように気をつけよう。
「おいおい、無愛想な犯罪者だな。そんな態度もいつまで持つか」
刑事が、歪んだ笑みを浮かべた。
落ち着いてはいるようだが、俺への怒りは消えていないようだ。
しかもいつの間にか犯罪者に昇格だ。
「あんたらがなんと言おうが、俺は知らない」
警察の予断と思い込みによる捜査の恐さ、それを俺は身に染みて知っている。
状況がどう動くにしても、身の潔白だけははらしたい。
夜のバイトに間に合えばいいんだが…。
それから五時間後。
「倉冨、帰っていいぞ」
そろそろ日も傾きかけた頃だった。取り調べ室に現れた警官は、やる気の無さそうな声で告げた。
「犯行時にお前が現場を離れていたことは,確認がとれた」
「ハァ…やっとかよ…」
長かった…本当は始めから知ってたんじゃないのだろうかと思う程に。
俺の言葉に、尋問していた刑事が憎たらしげに舌打ちをした。
刑事の質問は、取り調べと言うより精神的な拷問に近かった。
犯行時の行動を、何度も繰り返し供述させられる。
少しでも矛盾があれば、その部分を指摘して執拗に責めつづける。
取り調べの作業として、よくある種類のものだが……。
やはり好きになれない。
「そう言うことみたいだな、帰っていいぞ、お疲れ」
残念そうに、向かいの刑事が言う。
謝罪を期待したが…まぁ見るところありえないか。
疲れた身体を引き摺って、俺は取り調べ室を出た。