近所の踏切の側、いつも『親分』はいる。
猫である。
この街に越してきて、初めて『親分』に出会い、その筋肉質な体型、顔の傷、漂わせている風格からして只者、否只猫ではないと、そう確信した。
『親分』私は心の中で彼をそう呼んだ。
「親分、おはようございます。」
「親分、お先に失礼します。」
心の中での親分への挨拶は欠かさなかった。
『親分』の『子分』になりたかったから。
『親分』は男の中の男だと思っていた。
この街は『親分』が守ってくれてるとさえ思っていた。
桜が散っていた。
桜色の視界の向こうに黄色と黒の踏切が、いつもの踏切が小さく見えてくる。
その踏切の横にはいつものように『親分』が悠然と………自分の目を疑った。
『親分』が近所のオバチャンからカニカマを貰っている。オバチャンに擦り寄る『親分』。
私の『親分』がカニカマを!?
オバチャンからカニカマを!?
『親分』の精悍な肉体とカニカマの毒々しい赤、そしてオバチャンのエプロンの花柄が私を悲しい悲しい気持ちにさせた。
私が通りかかると、気のせいか『親分』は、恥ずかしそうに俯き、カニカマを食べていた。
「スズメとか捕って食べろよ」
そう呟いた春。
『カニカマ親分』は今日も踏切でオバチャンを待つ。