どうやら彼女は和食には疎いらしい。
リクは軽い解説を加えながら無難なメニューを二人前注文した。
『あの…所で』
『はい?』
琴の音が流れる中、不自然な沈黙を保つのは正直耐えられなさそうなので、今度はリクから話を振ってみた。
『太子党…なんですよね?』
『まあ、そう言う事になるのかな』
バリバリの太子党は、しかし、漆塗りの卓に片肘を突いて、その掌の上に載せた笑顔で別に悪びれる事なく答えた。
『その貴方が、何だって一般星民の弔いを?』
『あら、悪い?』
『悪くは…無いですけど』
苦手が三つばかり重なって、少年は口ごもり俯いてしまった。
『分かるわ、その質問』
マエリーはこくこく頷きながら、意外な答え方で、観戦武官を又もや驚かせた。
『…え?』
『太子党が残忍で強欲だとか、人を平気で踏みにじって楽しんでいるとか、本当困った物よね!?お陰で私まで悪者扱いされる事、しょっちゅうだもの』
両手をばんと卓に置きながらまくしたてる彼女に、思わずリクは小刻みに震えた指を示しながら、
『ええっ?だから貴方、太子党なんでしょう?』
『そんな化け物見るみたいな顔しないでよ!太子党だからこそ、こうして困ってるんだから』
どうやら自覚なしで声のみならず顔まで引きつってしまったらしい。
こう言う時、必ず逆立つ髪を手で整え出した少年に、
『家柄がそうだってだけで悪く見られるなんてね…何も悪い事しなくてもやっぱり偏見に色々晒される物よ』
マエリーはぼやいて見せた。
そこへ、料理が運ばれて来た。
『羨ましいわ。自由って』
『…えっ?』
出された天ぷら蕎麦定食を食べながら、太子党らしからぬ台詞に接した少年は、箸を持つ手を止めた。
『私の家は、割と自由な方なんだけど、身分が付いて回るでしょ?だから生き方とかね、余り選択出来る分けでもないし』
きょとんと見つめたままの一対の黒い目の前で、彼女は左手のフォークをくるくるやり出した。
そして、そのまま顔を一気にリクに寄せ、
『ねえ、共和国宙邦はどうなの?門閥貴族とかはいないって聞いたから、私達よりは自由なんでしょ?』
『うーん、自分は貧乏だからこの道に入りましたから、それ程でもなかったかなあ』
『じゃあ、大して変わらないのね』
そう言って大笑いする彼女に、
『そうですね』
リクの顔も思わずほころんだ。