「航、優の事前から気に入ってるんだよ。んで、この間、間近で見て、マジボレしたって。」
「何それ。なんであたしが中坊とデートなんてしなきゃいけないのよ。」
「んじゃあ、交渉決裂だな。」
正希は、優希に不敵の笑みを送った。
「…分かったわよ。じゃあ、次の日曜の午後。」
「分かった。迎えに来るように言っとく。」
我が弟ながら、手強い…完全に弱みを握られてしまった。
阿久津 航も、人の事を気に入っただとか、マジボレとか…何を見て言っているのだろうか。
優希は、訳が分からず、ただただ、正希の言いなりになるしかなかった。
新学期が始まり、約束の日曜になった。
ガチャ。
「優、航来たよ。」
優希は、支度をすませ、玄関を出た。
門の外に、オレンジ色のTシャツにジーンズ姿の航が立っていた。
「こんにちは。今日は、よろしくお願いします。」
航は緊張しまくりな様子なのに気付き、優希は笑顔でいう。
「どこいく?」
「えっと…これっ!」
航はチケットを2枚、優希に手渡した。
「水族館??」
「知り合いにもらって…。良かったら…」
「行こっ。」
駅まで5分ほど歩き電車に乗っても航はまだ緊張していてろくに話もしない。
「航くんて、無口?」
「いやっ。そんな事ないっす。…緊張しちゃって…」
「敬語やめようよ…気楽にしゃべって?」
「はぃ…」
「わたし、よそよそしいの嫌いなの。敬語使ったらシカトすっから。」
「…うん…」
電車を降り、肩を並べて歩く。
航は中学生のわりに、身長は高めだった。顔も整っているけど、正希と比べると少しだけ大人びた感じはするが、やはりまだ体はきゃしゃで、男というよりは男の子といった感じだな…と優希は航を眺める。
その視線に気付き、航が振り向く。
優希と目が合い、赤面する。
「…なに?」
航は恥ずかしげに聞く。
「うん?航、もてるでしょ。」
「…もてないよ。なんで??」
「なんとなく。」
「正希に聞いたかもしれないけど…」
航はうつむいた。
「ん?」
「俺、優希さんのこと…」
「私、彼氏いるよ。」
優希は、航の言葉を最後まで聞く事なく、言った。