何も知らなければ良かったのに。恋する喜びも、切さとかも何もかも。気付いてしまったあの日以来、私は未だに痛み続けている。治りかけの傷口にできた薄い痂を剥ぐような、鈍くも鋭くもある痛み。きっとこれからもずっとうずいては止みの繰り返し。
17歳の高瀬那奈には思い続けて二年経つ男がいる。それは那奈の元カレで、同い年の黒川流星。二年前、友達のつながりで、会ったこともなかったが、メールのやりとりをするうちに親しくなって、あっさりと付き合うことになった。
二人で笑って、時に些細なことで喧嘩もして、別れ話も何度も出たが、お互い自分が本気で別れる気がないことくらいわかっていた。那奈は気付くのが遅すぎた。恋をすることの幸せさを、儚さを、恐ろしさを‥。
付き合い初めて3ヵ月ほど経ったころ、二人の気持ちはすれ違い出した。これまでにも何度かお互いが素直になれない時期もあったが、今回はどこか違う。流星は、会えば那奈に体を求めるだけで、少しの愛も感じられなかった。前に比べて明らかに無愛想になった流星からのメールもついに途絶えた。
那奈は何もわからなかった。自分が悪いことをした覚えはない。いつも流星のことを一番に思って、信じていた。夢中だった。”タバコ買って”と言われても、それが冷めたから利用されているとかそんなふうに考えることなどできなかった。
那奈は何日も何日も泣き続けた。何も考えることもできず、堪えようとすればするほど涙は止まらなかった。学校でも、バスの中でも、人がいても、一人でも‥。どんなに待っても流星からは何の連絡もない。わかってはいても、やっぱりどこかで待っていた。そんな自分がすごく嫌だった。
どのくらい経ったのだろう。泣き疲れて、時間の感覚も薄れていったが、やっと現実だと受け入れ、気を紛らわそうと那奈はバイトを始めた。
それでも当たり前のように、四六時中流星との日々を思い出してしまう。
「なんで?」
いつしかそれは、那奈の口癖となっていった。【続】