優希の大学生活は充実していた。
新しい友人もでき、テニスサークルに入り、合コン、バイトも始めた。
一人暮らしにも少しずつ慣れて、一人でいる時間も寂しくなくなった。
恋愛観は変わってきていた。
学校やバイト先のファミレス、合コンでたくさん出会いはあったが、彼氏を作る気分にまで盛り上がらなかった。
同時に性欲も現れなかった。
心の底から愛しいと思える人…
そのような人が現れる日が、私にもくるのだろうか。
自分のすべてをさらけ出す事のできる相手。
その為には自分も変わらなくてはならないと、感じていた。
ただ、その為にどうすればいいかはまだ分からなかった。
7月になると、母から電話がきた。
『学校、もう休みに入るんでしょ??たまには帰ってきなさい。』
引っ越ししてきてからまともに帰ってなかった。
たまに、食事しに帰ったり、必要な物を取りに帰ったりする程度だった。
「んじゃあ、八月、バイト少し休みもらって帰る。」
八月、久々の我が家に帰省した。
「優、やせたな。」
正希がいう。
「そ?テニスまた始めたからしまってきたのかも。ちゃんと栄養はとってるよ。
正希は、背が伸びたね。」
父も母も、久し振りの一家だんらんに顔がほころんでいる。
正希も、部活を引退して今年の夏は受験勉強に打ち込んでいた。
「明日、航来るよ。
課題一緒にやるから。」
阿久津 航
忙しい生活の中で、忘れかけていたが、胸の奥の片隅にいつもあった存在。
「ふ〜ん。元気?航くん。」
自分の弱い部分を唯一しる人物。
「ん。女ができた。」
私の凛とした姿が好きだと言っていた男の子。
「もてそうだもんね。あの子。」
優希の心はざわついていた。
だが、自分でそれを否定し続けた。
動揺?
弱みを握られているから?
航がその事を、弱みとしてなんて考えていない事は理解していた。
それでも、航を拒絶した。
本当の自分を知られたくなかったから。
だが、自分は変わろうと決めた。
それでも、年下の彼を相手にそんなことはできる訳ないと思っていた。