3月
桜の花の蕾がふくらみ始めた頃、春の心地よい風が二人を包む。
「何食べたい?」
「ん〜。迷うな。んじゃあ、お好み焼きとか?」
「了解。いい店あるから、行こう。」
優希は白いブラウスにベージュのカプリパンツ、一週間程前に、肩まで伸びていた髪をばっさりショートカットにした。
「髪、随分短くしたんだね。」
「うん。」
「俺が初めて、優希を見た頃もその位だった。」
「うん。テニスするとき、これが一番いいんだ。」
「長いのも、短いのも似合う。」
少し照れくさそうに航は言った。
そんな航を見て、逆に優希も照れてしまう。
「…ありがと。さっ!焼くよ!」
あっという間の一時。
お互いに聞きたかった事をたくさん聞いた。
誕生日、血液型、趣味、特技、好きな芸能人、歌手…
「優希、今、彼氏いるの?」
航が一番気になっていた事だった。
こんな事を聞いたら、優希に嫌われてしまうかもしれない。
それでも、聞きたかった。
知りたかった。
…自分に望みがあると実感したかった。
「いないよ。」
「そっか…」
航は安堵した。
「航は?」
「いるわけないっしょ。俺は、いつか優希が振り向いてくれるのを待つのみ。」
「……そっか。」
「別に焦ってる訳じゃないよ?」
「うん。」
「年の差は何年経っても縮められないけどさ…
俺、早く大人になるから。」
航が、どの位自分の事を想ってくれているのか、優希には胸が張り裂けそうになる程伝わっていた。
「じゃあ、航がN高のサッカー部でレギュラーになって、公式戦で得点決めたら。」
「優希…?」
優希は自分の気持ちを伝えたいとおもった。
「私を航の彼女にして。」
「……優希?」
航は動揺を隠せない。
言葉も出てこない。
「私、航が好き。」