吸血鬼無想?
レイナがソフィアの後ろに見た少女、それは幼い頃のソフィアそのものだった。少女は涙を流し、何かを訴えていた。
「わかったわ…約束…だもんね…」
レイナが再び立ち上がり刀を構えた。
「うそ…なんで…なんで立てるの?」
ソフィアは驚きの色を隠せなかった。血まみれで立っている姉の姿に恐怖すら感じていた。
レイナが刀を振るった。だが、その剣撃は弱々しく力が籠もっていなかった。ソフィアは剣撃を跳ねのけるとレイピアをレイナの胸めがけて突いた。しかし、その刃はレイナの心臓を捉えることはできなかった。レイピアの突きより速く引き抜かれた銃口がソフィアの額につけられていたのだ。
「お姉ちゃん…」
レイナの顔が妖しく歪んだ。その目は力強くもどこか虚で満ちていた。そして、彼女は引き金を引いた。
雨が降っていた。
崩れ欠けた天井からしとしとと優しく降り注いでいる。
「…お姉ちゃん…ありがとう…約束…守ってくれたんだ」
「……」
「安心して…私の血はもう不活性化してたの…例え、血が混じったとしても、人間を吸血鬼にする力はないわ…」
ソフィアは微笑んだ。彼女はソフィアの膝に抱かれ、どこか幸せそうだった。
「なんで…こんなことを…?」
「私ね…寂しかったの…家族が…欲しかった…」
「バカな子…私がいるじゃない」
「お姉ちゃんと私は違うもの」
「違わない…あなたはいつだって…私の可愛い妹よ…」
レイナの目から涙が溢れる。流れ落ちた涙がソフィアの頬を濡らした。
「あったかいなぁ…お姉ちゃんは…眠くなっちゃうわ…」
「いいよ…ゆっくり…おやすみ」
「おやすみ…お姉ちゃん…」
ソフィアが静かに目を閉じ、眠るように息絶えた。レイナは彼女の頭をそっと撫でた。
「おやすみ…さよなら…私の…」
レイナの視界が涙でふさがった。傍らで幼い頃のソフィアが笑っているような気がした。