あの出来事から二日。クラスの端っこで本を静かに読む……宿題の提出を忘れ、先生に一喝される……いつも通りのだらだらとした練習……。この頃の僕は何だが変だ。あの子の事が頭にこびりついてなかなか離れない。
パコッという強い衝撃を顔面に受けて我にかえると、ペアの内藤がムスッとした顔といらついた態度で立っていた。「お前、やる気あんのかよ?」「ゴ…ゴメン……」コートの反対側にいるペアに向かって自分でもわかるかわからないかの小さな声で答える。ネットに向かって助走をつけ、ハードルを飛び越えるかのようにジャンプしてくる内藤。「どうした?未だにあの試合の事、まだ気にしてんのか?」少しドキッとしてしまうのは自分でもどうしてかわからない……。「お前がしっかりしてくれないと俺の後衛がいなくなっちまうんだよ。今日は少し休め。顧問には俺から何とかいっておくから、さ」物凄い優しさを感じ、自分に罪悪感が残る。「ゴメン………」「お前最近謝ってばっかだな」「あ、………ゴメン……」またかよ…というような顔をする内藤。
そそくさとコートを立ち去り、教室に置いてある荷物を取りに行く。トイレにトボトボと着替えを持って行き、誰もいないことを確認しながら一人しゃがみ込んだ。『こんなんでいいのか?……早くあのことは忘れるんだ!……』心の中でそう叫びながら鏡をじっと見つめていた。
着替え終わり、誰もいない下駄箱を風の様に通り過る。校門近くに差し掛かったとき、「清水!!」と自分の名前を呼ばれて一瞬にして固まる。二階の校舎の窓からだった。相手は顧問の佐藤。「ヤバッ……」即座に逃げ出そうとした。「おっ、チヨットまて!おい!まてって!」いつも叱られる時に言う「バカヤロー!」の罵声が聞こえないので校門をすぐにでたところで脚を止め、恐る恐るのぞくと佐藤がこちらに向かって手招きをしていた。後が怖いので足早に校舎のしたに行き上を見上げると「お前に電話がかかってきてるぞ」
電話?僕は何かやらかしてしまったのであろうか?まさか、売り物の本のフクロトジを開いたのがバレテしまったのか!?……はたまた道端で見つけた百円玉を猫ばばしたのを目撃されていたとか!?……どちらにせよいい電話ではないとおもっていた。しかし相手は想像とは反する人物であった。「あぁ、清水君かね?」その声は明らかにあの駅長であった。