総合病院までの道のりを携帯の地図で検索し、徒歩で10分という距離である。「走れば5分」そう自分に言い聞かせながら一歩一歩脚を進ませた。走っている自分がここまで軽やかだとは全く思っていなかった。いや、いつもならここまで軽快には走れないだろう。今の僕には何かの力が働いている。何だかは解らないげどそう感じざるをえなかったのだ。次の信号を右に曲がれば左側にその病院がある。
歩行者用信号機が赤に変わる前の点滅を繰り返している。オモイッキリ脚を動かし、赤に成る前に滑り込んだ。思わず壁に頭を打ち付ける。目の前の景色がおかしい。頭の中の血流が逆向きに流れる感覚を覚えた。直ぐさま立ち上がり「後少しだ」自分に言い聞かせながらまた走りだす。
ようやく病院に到着した。時刻は40分前。自動ドアをぬけると涼しく病院独特のアルコールの匂いが充満している。ついさっき頭を壁にぶつけた自分にとってはただの頭痛を悪化させるものでしかなかった。
直ぐさま受け付けへと向かう。そこには若いが可愛いとまでは行かない女の人が怠そうに椅子に腰を下ろし、雑誌を見ていた。時間がない。駆け足で近づき、「す、すみません。あの……」ぎろっと僕を見つめる。「あ、あの宮本琴美さんの病室は一体どこにあるのでしょ…」「あ〜ぁ、あの子ね。601号室ですよ。」聞いている途中でいきなり言われた。「そ、そうですか…ありがとうございました。」僕の挨拶も聞かずにまた雑誌に目を通す。その時、絶対に病院のアンケートに『接客態度が最悪』と記入することを心に誓ったのであった。
流石総合病院なだけはある。とにかく広いのだ。途中で増築したせいもあるが何だか入り組んでいて思うようにたどり着けない。薄ら明かりの中、やっとたどり着いた時にはもうすでに50分前。「ここが琴美さんのへやか……」なんとそこは病院の一角を占めるほどの大きな部屋で、ドアは綺麗な木目の入った立派なものだった。そこには『宮本琴美様』と普通は紙でしるしてあるところが何故か金属でできたプレートに印字されている。口をあんぐりと開けるしかなかった。「お金持ちのお嬢さんなのか……」何だかショックが大きい。「住む世界が違うのかもな」そんな事を言いながら突っ立っていた。がしかしここまで来たのだ。挨拶だけでもとドアノブに手を掛ける。金属特有の冷たさが全身にかけ走った。