航は立ち止まり、辺りを見回した。
3ヵ月前に会ったきりだった優希の声。
ずっと聴きたかった優希の声。
幻聴?
会いたい想いが強すぎて、頭がおかしくなった?
それとも、疲れがたまってた?
駅の構内の人波の中で、目を凝らす。
優希がいた。
優希は亮司の手をはねのけ、航の元に駆け寄った。
「優希??どしたの?こんなとこで。」
同時に優希の後を歩く亮司に目線がいく。
「飲み会の帰り。一緒に帰ろ。」
「弟??俺、亮司。優希ちゃんの彼氏候補。よろしくね。」
亮司は笑顔で航に言った。
航は亮司をにらむ。
「変な事言わないでよ。帰ろ。航。」
「冷たいな。キスまでしたのに。」
「ちょっ!!亮司くん!何言ってんのよ!!」
「いこっ!航!!」
優希は航の手を引き山手線のホームに向かった。
アイツ…最低だ…
「優希、俺、総武線なんだけど…」
「あ…ごめん。そうだよね……」
「……さっきの」
キスしたと言っていた。
「ん?」
彼氏候補…
「彼氏候補なの?」
嫉妬。
「そんな訳ないでしょ。」
不安。
「…キスしたの?」
疑い。
「あんなの事故だよ。」
頭が真っ白になる。
「……」
冷静になれと、思う程、そうではいられなくなる。
「優希、俺の事なんて、どうでもよくなった??」
大人気ない…
最低な質問だ…
「なる訳ないでしょ。私は航を信じて待ってるよ?」
「…じゃあ、証明してよ。」
「…?…」
「優希が、どの位、俺の事を想っているか。
言葉だけじゃ分からない。」
最低な男だ。
優希はきっと呆れてる。
完全に嫌われた。
「航、うち来る?」
「…優希?」
「証明するから。」
航と優希は無言で優希のアパートへ向かった。