「お前は、人の悲しみを吸い取る能力を持っている。この能力は人を救済出来る、素晴らしい能力だ。」
…僕は驚きもしなかった。
「でも、この能力は強すぎる…人悲しいという感情自体を吸い取ってしまう…母さんやその女の子のようにな。それに、お前にも少なからず反動があるようだし。」
僕は驚かない…でも僕の中で二人の悲しみが湧き上がって来るのがわかった。
「決して、安易に使うんじゃないぞ。悲しむことが出来ないのは…この上なく悲しいことだから…」
父さんの目にはうっすらと涙が滲んでいた。
「…イル、明日になったら家を出てどこか知らない所へ行こう。」
父さんの目つきが急に鋭くなった。
「どうして?」
「実は、政府が能力者調査と言って、近々この辺に来るらしいんだ。この辺はスラム街出身が多いからな…政府に捕まったら施設に送られて、何されるか分からん。だからその前に逃げるんだ。」
僕は急に恐ろしくなった。
「うん、わかった。」
「よし、じゃあ早く荷物をまとめるんだ。明日の朝一には出掛けるぞ。」
僕は急いで荷物をまとめようとした…その時だった。
ーコンコンー
玄関からノック音がした。