「あら、えらく真剣ねぇ。良さそうだった?もう、そこにするの?」
K大学の資料を眺める僕に、母さんがつきまとう。
「あぁ。」と短く返事をし、僕は部屋へと向かう。
あの日以来、僕は中毒のように咲の笑顔を思い出しては勉強に取り組んだ。成績はそこそこだったが、K大となると、担任も少し悩んでいた。
だけど、僕の心はもう、咲へと走り出していたんだ。
今までも、何度か彼女はできたが、興味本位やら、退屈やらで、こんな気持ちになることはなかった。少しだけ女のコの気持ちがわかった気がして、胸が痛む。
僕の初恋。
あれから3週間ほど過ぎて、僕はどうしても咲に会いたかった。会える気がした。もう、一目見るだけでも良かった。そして、思いたってすぐ、もう一度あのときの場所へ行った。でも、咲らしき人はいなかった。ふと思い出して、桜の木の方へ向かったが、やっぱりいなかった。
咲は今ごろ勉強しているのだろうか?
どこの高校に通っているのだろう?
バス通?チャリ通?
血液型は?星座は?
どんなことも知りたかった。でも僕が知っているのは、この桜の木だけ。
一分ほど、そこにつったってため息をつき、諦めて帰ろうと振り向くと、遠くからカメラを手に持ち、咲が歩いて来る。
僕は一瞬やばいっと思って、不自然にくるりと桜の方にまた振り返ったが、だんだん砂混じりの足音が近づいてくる。
『あの..長谷川くん?』
不思議そうに、じっと見てくる。
「あっ..あの、なんかここに来たらもう一度小川さんに会える気がして。」
僕の声は完全にうわついている。何微妙に告白してるんだと、顔を真っ赤にした。
『咲で良いよ。じゃぁ修ね。』
クスクスと、咲も少し照れながら言う。
僕らは無言で笑っていた。【続】