ヤス#44
その時、ふすまの向こうで声がした。途端に、アイが消えた。
「ヤス、もう寝たの?」「い、いや…起きているけど…はぁ、はぁ、はぁ…」
「ちょっと、いいかな?」
母の純子がふすまを開けて入ってきた。
「あっ、うんっ。何?お母さん…」
ヤスが肩で息をしている。純子は膝を折るとヤスの肩を掴んだ。
「ヤス!どうしたの?具合でも悪いの?」
「あ、ああ…いや…何でもない」何でも無くはないでしょう?…ヤス、話して。何があったの?」
ヤスは話しても信じてもらえないと思っている。現に、御床島の龍神の話しは信じてもらえなかったのだ。
「ヤス…話してもらえない?」
「お母さんは、僕を信じている?」
「もちろんよ。御床島の話も信じているわよ」
ヤスは意外だった。家族は皆、ヤスの話を幻でも見たのだろうと決め付けていると思ったのだ。母だって、今日の話は信じてくれないと思いこんでいた。ヤスは全てを話そうと思った。
「父さんと爺ちゃんは?」
「もう、お酒に酔って寝たわ」
「長くなるけど、いい?」
「もちろん平気よ。お願い、話して」
「うん…」
ヤスは思い出すように、淡々とサトリとの出逢いから話しだした。