航宙機動部隊第二章・17

まっかつ  2007-05-01投稿
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シルミウム星系第二惑星《A=10》周回軌道上・統合宇宙軍総旗艦・戦艦《スタニドルフ》―\r
『それでは、太子党を巡って合衆国陣営が分裂しつつある、と言われるのですか』
皇帝エタンは執務室にいた。
一見温厚そうな青年にしか見えないが、れっきとした専制君主にして、彼は合計四千万人からなる軍閥連合を率いる最高司令官なのだ。
身長一七七cm・体重六三kg、中央域人士の標準と比べると、平均からやや小柄な体格をしていた。
今は濃紺生地で作られた第二種軍装で身を固めている。
眉目と頭髪はいずれもコーヒー色をしており、顔の造形は東洋・西洋両者の混血を思わせる物であったが、取り分けエキゾチックと言う分けでもなかった。
君子人らしい雰囲気の持ち主であり、また事実彼にはそれに相応しい礼節・教養があった。
『はい。彼等の暴走は敵としても予想外だった様で、対応に追われつつも翻弄されている様子です』
皇帝のデスクの前に立ち、大本営左総長・クレオン=パーセフォンが答えた。
作戦の企画・立案や後方部局・情報面を統轄する幕僚部の彼は責任者だ。
軍内序列では皇帝・スコットに次ぎナンバー3を占める。
エタンを除けば、恐らく最外縁では最高の頭脳の持ち主だろう。
否。
軍事、諜報に限れば彼は間違いなく全銀河でも十指に入る逸材なのだ。
その左総長が実に魅惑的にして危険な香りに満ちた知らせを、注進して来たのだ。
エタンはデスクに直に置いた両手を握り、目を閉じて天を仰ぐ様な姿勢を見せた。
『彼等を御存知でいらっしゃいますよね。陛下は』
クレオンが高級そうな金縁眼鏡の奥を光らせた。
『ええ、勿論』
元ユニバーサルエリートの皇帝が知らない訳がない。
『ですが、星間諸侯はともかく、その子弟達がここまで来ていたとは…正直私もびっくりしていますよ』
クレオンが示した光像ボードにスクロールされた《ワルガキ》共の顔写真付き個人データを眺めながら、皇帝は感想のままを口に洩らした。
『彼等の為にパレオス星民が多大な被害に遭い、既にパレオス・軍・星間諸侯の三者の対応にばらつきが出て来ております』
『左総長はこれをどう分析します?』
『パレオス政権は星民の声を無視出来ません。すればかの国の民主主義は滅亡します。一方、敵連合艦隊上層を掌握するは星間諸侯です』

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