私は鞄を持って逃げ出した振り向かず
ただ
ただ
真っ直ぐに
振り向いてしまうと沙世がそこにいそうで怖かった
それからというもの沙世のイジメはエスカレートしていった
机に落書き
物は焼却炉の中
下駄箱に烏の死害を入れていた事もあった
だけどあれから私に火花が飛んでこない事を安心していた
そんな息のつまりそうな安心感を抱え始めた帰り道
久しぶりに彼女を見た
♪〜最終電車に乗って
見たことも無い景色〜
彼女がいつも口づさんでいた歌なのか
細身の彼女に似合う可愛い壊れそうな声だった
そんな彼女の後ろ姿を見ていようと振り返った瞬間
彼女はクルッと私の方を向いて
こっちへおいで
と微笑んだ
言ってはいないが
確にそんな気がしたんだ
足が勝手に進む
行ってみようか
おいで
「ミチ!!」
不意に腕を掴まれた
沙世だ
気付いた時には彼女はもういなくなっていた
「こんな所で何ボーっとしてるのぉ?」
「別に何でも……うん」
「私ねぇ」
沙世はこんなに怖い子だっただろうか?
バサバサと慌ただしく烏が飛び回る
耳を塞げるものなら塞ぎたかった
それも許さないかの様に沙世の手は私の腕をしっかりと掴んでいた
キャハッ♪
「私ねぇお願いがあるんだ」