暇の潰し方18

あこん  2007-05-03投稿
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「…日下部。」
道路を渡ろうとする日下部佳奈理を呼び止める。
嫌な予感がする。
日下部は聞こえてないのか速度を緩めない。
「日下部!」
動悸が激しくなる。焦っている。
何故?
信号は青だ。何を焦る?
「く…。」
…どういう訳か、三度目を躊躇する。
彼女が、離れて行く。
消えてしまう。
目の端で、向かって来る大型トラックを捉えた。
消える、消える?
「…カナリ!」
自然と体が動いていた。
俺の手は彼女の腕を掴み、俺の口は彼女の姓ではなく名を呼んでいた。
振り返った彼女は目を見開いて俺を見ている。
右側に視線をやれば、トラックは停止線の手前で止まっている。
…何事も、ない?
とにかく横断歩道を渡り切って、俺はへなへなと腰を下ろし、脱力した。
「えー、と、笠木くん?」
「…なんだ?」
日下部がこちらを覗き込む。
「先程の行為は一体…?」
まさか日下部が理解出来ない行動を俺が取るとは。一本取った感じだ。
いや、そうではなく。
俺自身、なんであんな事をしたかわからない。ただ、なんとなくだ。
「いや、トラックが直進してくるように見えたから。」
とりあえず認識していることを言ってみる。
「普通に呼び掛ければいいじゃないですか。」
「なんとなくだ。」
「それに、笠木くん自分からトラックの前に出てどうするんですか。もし本当にそうだったら私の巻添えですよ?」
「ついだ、つい。」
俺にだって理解できん。
「…あと、なんで名前呼んだんです?」
疑わしげな目で日下部が俺を見る。
いつもと立場が逆でちょっと面白い。
「どうでもいいが、顔が近いぞ。」
「じゃぁ放してくださいよ。」
「え?」
…俺の手は、日下部の腕を掴んだままだった。
「…悪い。」
「いえ、いいですけど。」
お互い離れて、溜息を一つ。
「ま、いいです。助けようとしてくれてありがとうございます、ヒロトくん。」
「んぁ?」
違和感に気付いて顔を上げる。
カナリは和菓子店に向かっていた。
「では、遅れて店に入った方が奢るということで。」
「あ、おい!最初からお前が奢る約束だったろ!おい、カナリ!」
カナリは店に半身を入れた。
「ご馳走様ですヒロトくんー。」
騒がしいのは変わらないが、互いの呼称はいつの間にか変わっていた。
それだけが、変わっていた。



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