「奈緒ちゃん、今、彼氏いないなら俺と付き合って。」
バイト先のイタリアンレストランの先輩。
梶原 健吾。21歳。
大学生。
容姿端麗で知的な感じでしかも優しい。
前から結構いいなって思ってた。
「はい。私でよければ。」
哲の事はやっぱりすごく気になった。
多分、好きなんだと思う。
でも、気持ちを伝えて、避けられたりしても嫌だし、万が一、恋人同士になって、ダメになって嫌われるのも絶対に嫌だ。
だったら、今の関係を続けていたい。
でも、“彼氏”という、ステータスは欲しかったんだ。
私、ずるいよね?
土曜日の夜、哲也と奈緒はラブホテルに泊まっていた。
奈緒が、夜中、ふと目が覚めると、哲也はソファーに座って、なにやら必死に書き物をしていた。
「哲〜。…何やってんの〜。」
「ん〜。課題…。月曜が期限でさ。明日、夜はバイトだし…」
哲也は大学の理工学部に通い、週に5日程、深夜のコンビニのバイトを朝までしていた。
「ふ〜ん。大学生も大変だね…」
奈緒はベッドから降り、バスローブを着ると、冷蔵庫からペットボトルのお茶を2本だして、1本を哲也の前のテーブルに置いた。
「サンキュ。寝てて?」
「うん。哲の勉強してる姿なんて、貴重だからちょっと見とく。」
お茶を片手に奈緒は哲也の向かいに座った。
難しそうな、数列のようなものが並んだ本が何冊かある。
奈緒には訳が解らないものばかりだった。
「哲、明日、買い物、無理に付き合ってくれなくていいよ?帰ってレポートしなよ。」
テーブルに頬づえついて、奈緒は哲を見上げた。
「やだよ。日曜日、珍しく、奈緒バイトないんだから、夜まで遊ぶ。」
「んじゃあ、もう寝よ?明日買い物だけしたら図書館行こ。そこでレポートね☆」
奈緒はテーブルの上の本を片付けた。
「図書館行ったってお前退屈だろ。」
「平気。本読んで待ってるよ。」
「…ん〜。じゃあ、付き合ってもらうか。」
「うん。」
一緒にベッドに入り、何度かキスして、眠りについた。