航宙機動部隊第二章・19

まっかつ  2007-05-04投稿
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クレオン=パーセフォンは驚愕と賛嘆に満ちた光を両目に湛えた。
『ここでいたずらに工作・介入を図り、目先の優勢を求めるは愚であるとお考えですか。私もそう思案しておりました。わざわざこちらから悪役を買って出て、彼等の重荷を肩代わりしてやるのは、人が良過ぎる話ですからな』
『ええ、そんな所です』
『では、当面は敵方の情勢を注意深く見守り、引き続き決戦の準備に努めつつ、余計な手出しは控える―と言う方針で行きましょうか』
『それが適当と思います―ですが』
『―ですが?』
『もう一つ…考慮に入れておくべき要素が有ります』
さっき以上に皇帝の表情は真剣味を増した。
『左総長も御承知でしょうが…軍事・政治・金融をも上回る強大な権力の存在です…ネット集合体です』
完全に意表を突かれて、クレオンは凍りつき、しばらく声帯を動かせない程になってしまった。
『…そ、それは…我が最外縁に置けるマスコミと同義と捉えてもよろしいのでしょうか?』
『ええ、ですが…こちらの方が遥かに大きい。しかも我々とは力のベクトルが全く正反対なのです』
『つ、つまり…中央域では国家権力が報道を握るのではなく、逆にコントロールされていると!?』
自分の言葉が上擦りっ放しになるのを気にする余裕すら、左総長は失っていた。
エタンは頷いた。
『彼等が望めばそうなります』
太子党に限らず、やはり辺境の人間からすれば理解を越えた、あるいは理解出来ない物は幾らでも有るのだ。
無理もない。
エタンですらその複雑怪奇さを充分に把握したと言う自信は正直なかったのだから。
『私の知っている限り、彼等の行動原理は単純明快です。全てマネーに集約されます。ですが、その結果を予測するのは極めて困難です。相手にするのは宙際世論と言う生き物ですから』
左総長は困惑を隠さなかった。
事実彼は困惑していたのだ。
『それは…厄介ですなあ。人の心ですか…しかも我々とは立場も文化も違う中央域人士の造る世論となりますと、一万隻の艦隊以上の大敵、否、怪物を相手にする事になるのですか』
それでもすぐに本質を見抜けただけでも、やはりクレオンは尋常な人物ではなかった。
しかし、分かっても有効な対処策が見当たらないのだから、余計にもどかしく感じるのだ。



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