『三000億星民達の欲望・嗜好を察知し、あるいは刺激して、それに見合った娯楽を提供し、スポンサーや資本家に利益を還元する―これが彼等のビジネスです。ですが、ここで大事なのは、最終的な利益さえ得られれば、順番を入れ換えることも彼等は厭わないし、また技術的に可能と言う事です』
エタンは自分の知る限りを左総長に説明した。
『順番を逆…ですか?』
『星民の愛好する、もしくは嫌悪するイメージを、誰もが知る情報を基に創り上げ、彼等の興味や感情を掻き立てる…こう言うやり方も取れます』
額に冷や汗が浮かぶのを、左総長は感じた。
諜報戦には確かに大衆心理を操作するこうした手法はあるが、民間機関がしかも商業目的でここまで巧妙かつ大っぴらに全く同じ事をしているとは、つゆぞ思わなかったのだ。
『この場合、虚偽の材料は使えません。だから(嘘)ではないのです。ですが真実でもありません。イメージ自体は伝え方によっては善・悪どちらにでも変える事が出来る。存在しないイメージすら合成出来る。さっきも言いましたが、ネット集合体が望めば、全て可能なのです』
『はあ…』
クレオンは溜息を漏らすしかなかった。
『全くの嘘を伝える事を除けば、彼等にはタブーが有りません。つまり、儲けになりそうなら、それ以外は全てやると言う事です。それも、ためらいなく。その彼等が太子党の引き起こした一連の不祥事―これをどう扱い、如何に報道するのか―こればかりは未知数なのです』
頭を抱えてそのまま床に蹲りたい衝動に、左総長はかられた。
敬愛すべき主君の目の前でさえなかったら、事実彼はそうしただろう。
『そんな敵は初めてですな。悪くしたら、一発の砲弾も撃たずして勝敗を決められてしまいかねない…』
『この要素が我々に不利に働くか、有利に作用するか、私も予測が立てられません。ただ、とにかく彼等はこの事件なり合衆国軍内部の不和を必ず全銀河に広めます。それも彼等に取って一番儲かりそうな形で流します』
『無理とは承知で敢えて伺います。陛下がもしネット集合体を取り仕切る立場に在ると仮定された場合、どの様にこの事態を利用なされましょうか』
『…そうですね』
デスクの上で頬杖を突きながら、エタンは初めて悩む表情を示した。
『感情的かつ極端な報道や番組を組んで、宙際世論を煽るでしょうね…』