ヤス#46
ヤスが、本当は実の子ではなく、伝馬船に乗せられて、御床島の沖合で漂っていた事を…。勿論、実の子として育ててきた。純子はヤスを心の底から愛している。だが、何時かは真実を話さなくてはならないと思っていた。今がその時だろうか…。純子はヤスを慈愛の眼差しで見つめた。目の前のヤスは未だ幼い。ヤスが真実を知った時、どれほどの傷を心に与えるのかが怖い。未だ伝える時ではないと、純子は口を噤んだ。
「あ…いえ…」
「お母さん、どうしたの?何かあるの?」
「ううん…その…只、嫌な予感がするの…」
「嫌な予感って?」
「わからないわ…只ね…母親の直感みたいなもの…龍神は古くから島に伝わる伝説だから、そのサトリも悪いものではないと思うの。只、アイと言うのが気になるわ…」
「アイ…」
「ヤス…どうかしたの?まさか…いるの?此処にアイがいるの?」「其処に、アイの…衣が」純子はヤスが指差す方向を見て、鳥肌が立った。悪寒が走る。純子はヤスにしがみついた。ねまき越しにヤスの顔が純子の乳房に埋まった。
風が起き、ろうそくの火が消えた。
「アイが…」
「いるの?ヤス…アイがこの部屋にいるの?」
「うん…きっと、いる」