「どういうこと?」
僕は冷静な声で訊いてみた。
「君はわたしのことを彼女だと思っている。それは嬉しい」
彼女はまっすぐ前を向き話している。
「うん」
「だけど、君はわたしがどういう状態か良くわかっている」
「……」
「いつまでも、こういう状態でいいの?」
「僕はこのままで良い。この状態は悪いと思わないし、変えることはないと思う」
僕の正直な気持ちだ。
「わたしはそう思わない」
彼女は首を振る。
「わたしは君とひとつになりたい。このままだと、君はわたしのみたいなヒトをどんどん増やしてしまう……」
彼女は前を向いている。
「僕もそう思う。僕と出会うヒトが増えれば増えるほど、君みたいな存在が現れると思う」少し息をついた。「でも、それでもいいんだ。僕はそのまま生きていく。忘れることもできるけど、それは嫌だ。君も僕の中で生きつづける。これは僕とひとつになっていると言えないかな」
僕も前を向いている。
彼女は少しうつむく。
僕は決心して言った。
「君は一年前に亡くなった。それはわかっている。だけど、そのとき君は僕に取り込まれたんだよ。もう、君のことを忘れることはない。僕は君の考え方や発想の仕方もわかっている。だから僕の中に君を再現できる。僕の中で君は生きつづける。忘れることはできないんだ」
彼女は前をにらみつける。
「僕は君を死なせはしない。僕が死ぬときまで」
(終わり)