「ふぅむ、…この辺りが震源の様じゃ」
高みから地上を見下ろしながら呟く朱雀。
その巨大な翼がゆるやかにはばたくたびに、中原健次の頭髪や衣服が烈風にあおられる。
「うわっ!うわっ、…す、朱雀さんよ…。
落とさねーでくれよな」
「おお、忘れておった。
丁度よい、そこで我が力を存分に見ておれ」
セスナ機ほどもある朱雀の体が《カッ》とまばゆい閃光を放ち、太陽光を凌ぐ強烈な光が地表の一点目がけて収束する。
「おわっ!…な、な、何だよこれ」
「地下のミズチ(大蛇)を鎮めておるのじゃ。
やっこさん、たまげると大地を揺るがすでのう」
「ち、地下にそんなモノいるなんて聞いた事ないぜ!」
健次が精一杯のツッパリを見せて怒鳴り返す。
だが、それをあざ笑うかのように朱雀。
「ほぅ。 では、ひとつ利口になれる訳じゃな。
あれを見よ」
「うっわー…ゲロゲロ…。
あれがそのミズチって奴か?朱雀のオッサン」
眼下に繰り広げられる凄惨な眺めに健次はおぞけをふるう。
地表では、半透明の毛深いミミズの様な化け物が強烈な光線に焼かれ、うねうねとのたうち回っていた。
今夜の夢にまで出てきそうなおぞましさである。
「うっぷ…」
「ほほう、ちと刺激が強すぎたか。
まあ、じきに終わるぞよ」
肉の焦げる異臭に思わず吐気をもよおした健次の目には、もはや形態を留めなくなっていたミズチの断末魔の痙攣が映っていた。
「うわぁ…。 何これ」
「愛さん、私に訊かないで下さい」
玄武の蛇の目玉に映し出された光景とは……
地表に絡みついていた途方もないサイズの蛇が、強い光に焼かれ縮こまっていくという異世界のビジョン。
『流石は朱雀です』
玄武の地鳴りにも似た声が、辺りをビリビリ震わせた。