春の陽気が感じられる頃、二人は出会った。
和真と由良。
2年に上がって初めて同じクラスになった二人は、当然ながら話した事もない間柄だ。
二人にはその頃、互いに孤立しているという共通点があった。
和真はまず見た目で。
逆三角に吊り上がった目は隠せるものでないし、無愛想なこともあって人は寄付かない。
前年に同じクラスだった者が世間話をする程度だ。
そして由良。
見た目は良いものの、いつも寝ている為に人が集まりようがない。
それぞれが理由は違うが孤立していた。
そんなある日だった。
放課後、下校時刻である。
和真が図書室から戻ると、由良がまだ眠っていたのだ。
「…。」
和真は、目の前の少女に人形のような儚さを感じた。
そして顔を覗き込んでいたのだ。
ぱちり、と。由良の両の瞼が開いた。
そこには至近距離で和真の顔。鋭すぎる目が由良の顔を映している。
「…なに?それ?」
由良はまず、和真の持つ本に気を惹かれたようだ。
「え、えーと、これだ。」
自分の顔を隠すように本を出した。
『世界の犬』
「…好きなの?」
「…基本的に動物全般は。」
由良から見えてはいないだろうが、和真は顔を赤くし視線を逸す。
「く、くくく…。」
和真の視界の外で、由良は笑っていた。
「そ、その顔で動物好きとか、ぷ、くくくく…。」
失礼な事を言われてるとは思うが、和真自身も自らの顔については認める。
「はー、おもしろーい!」
散々笑って、由良は涙を拭きながら和真の顔を見た。
「くく、えーと、起こしてくれてありがとね。先生に怒られるとこだったよ。」
まだ多少笑っている。
「…別に。」
由良は、素っ気なく返す和真を全身見回す。そして、
「うん、気に入った!名前は?」
「へ?…えーと、た」
「違う違う、苗字じゃなくて、な・ま・え!」
「…和真。」
「そっか!あたしは由良。これからよろしく!和真!」
そして、今に至る。
「授業が始まる度、帰る度、行事の度、いつも俺に起こさせやがって。」
「和真がお人好しだからいけないんだよ。放っておけばいいのに。」
「そんなことしたら、由良と一緒に俺も怒られる。なんで起こしてやらなかったんだ、て。」
今では、軽口を叩き合えるくらいになっている。
そして和真は由良の目覚時計、という認識もされつつあった。
「じゃ、明日もよろしくね!」