『くそっ、くそうっ…何で、何でこんな事に!』
同じ動ける宮城の内、一km程の直線距離を挟んだ割当て邸宅で、一方の当事者も似たり寄ったりの行動に浸っていた。
最も、生まれの成せる業か、一応は彼の美意識と経済観念を破らない程度に配慮されてはいた。
手当たり次第に捕まれた玉石が、ひっきりなしに速射され、池は一面無秩序な水紋達のぶつかりあいで激しく揺れる。
『何やってるのよ。死んじゃうよ?鯉』
奇妙な仕方で八つ当たりをする同胞を見かねて、テンペ=ホイフェ=クダグニンが寄って来た。
リク=ウル=カルンダハラは感情も理由も隠し立てはしなかった。
『またフーバー=エンジェルミが…今度はデモ隊を殺した!』
『うっそ…』
少女は驚愕に立ちつくし、両手で口を押さえた。
持った石をそのまま下に棄てて、開いた掌に観戦武官は顔を落とし、
『だから、俺は…生まれて初めて…人を撃ったんだ。訓練通りに…でも、いきなりこんな、殺し合いになるなんて』
軍事国家の子弟だから、動物の血や合成映像とかで、早く精神的免疫を得るようなカリキュラムは受けているし、それに耐えうる素質も有るから官員コースにも入れた筈なのだが、やはりショックは否定出来ないのだ。
いきなり三人も死なせてしまったのだから。
『俺は怪我は無かったが、見方によっては立派な犯罪だ。事実船内警備の連中は俺を逮捕しようと…たまたま憲兵が来て、俺を連れて行ってくれたから良かった物の…』
『本国には?報告したの?』
『もうした。そしたら…【事実関係が充分判明するまで現在の任務に変更はなし】と…良いとも悪いとも言わないし、これじゃどうしたら良いのか分からないじゃないか』
『ふうん…信頼されてるじゃない?貴方』
やや的外れな関心の仕方をする相方を、少年はしばしまともに睨み付けたが、
『明日だろ?お前のパレオス行きは』
『ええ、そのまま深夜の番組に出演するわ』
『断れないのかよ。こんな時に』
『私だって何か役に立ちたいもの』
発育の良い胸の膨らみに片手を置いたテンペの訴え方は、これまでになく真剣な物だった。
『確かに、テロは怖いし、もしかしたら太子党が私も狙ってくるかも知れないけれど、でも、否、だからこそっ、こんな所で逃げ出す分けには行かないじゃない。それに、私にはこれしか出来る事がないから』