邪龍?
「本当に心配したんだからね」
咲子が林檎の皮を剥きながら言った。
「すんません…でも、俺が寝てる間にそんな事になってたとは…」
幸司が頭を掻く。まだ、頭に巻かれた包帯が痛々しい。
「天馬の奴…大丈夫かな…」
「あなたの方が心配よ…」
そう云うと咲子は幸司の口に切り分けた林檎を押し込んだ。幸司がモゴモゴと口を動かしていると病室の扉が開いた。
そこには蔵王丸が立っていた。
「おぅ…起きたんだね…おはよー幸司くん」
明らかに眠そうな目をこすりながら蔵王丸は幸司のベッドに近寄った。
「主任…また…出たんですか?」
「うん。今回は漁船が襲われてね…うちの役人を含め、六人が死んだ」
蔵王丸の顔が険しくなった。幸司も拳を握り黙りこんだ。
「しかし、良い報せもある。天馬くんが龍の巫女を見つけたらしい…これで邪龍対策を練ることができる」
「それで…天馬くんは?」
「もうこっちに着いてるよ…ただ、肝心の龍の巫女がね…」そう云うと蔵王丸は頭を押さえて幸司の方を向き返った。
「会って…みる?」
「このバカ…心配ばっかりかけさせやがって…」
天馬は幸司の姿を見るなり言った。
「なんだよ…こっちは怪我人だぜ?」
今、ベッドの上の幸司を囲むようにして天馬、咲子、蔵王丸そして、巽美優が座っている。
「まさか、美優ちゃんが龍の巫女とはね…」
幸司は視線を美優に向けると苦笑した。美優は曖昧に微笑みをかえした。こういう時は大概何も考えてはいない。
「さて、役者も揃った所でミーティングを始めよう」
全員を前に蔵王丸が言った。
「まず、手順を説明しよう。美優くんが邪龍を呼び出すそして、龍現の舞で邪龍を浄化する。念の為補助として、天馬くんをつけよう」
「俺は?」
「怪我人は無理しない。ここで待ってなさい」
幸司はしょぼくれたが蔵王丸は気にせず話を進めた。
「作戦は後二時間後に行う。二人は急いで準備に入れ」
天馬と美優が頷いた。