―女子バスケ部部室前―\r
『いつまでも過去にとらわれとって、何かえー事あるんか?』
私は阿部やんの言葉を思い出し、立ち尽くしていた。阿部やんの言う事はもっともだと思う。でもなぁ…。
はぁ〜っとため息。
(伊原、もう来てんのかな…)
ドアノブに手をかけた、その時、
「水城先輩」
背中で伊原の声がした。
「おっ、おはよ」
何故か慌ててドアノブから手を離した。
「おはようございます。入らないんですか?」
(…あれ?)
案外フツーだったもんだから拍子抜けしちゃった。
「あ、入るけど…」
「じゃ、先にどーぞ」
そう言ってドアに手を差し出す。
「ありがと…」
それからと言うものの、伊原は至って普通で逆に私の方がちょっとおかしかったかも知れない(行動が)。
(もしかして勘違いだったのかな)
伊原が私の事を想ってるなんて、私の思い過ごしだったんじゃないか?なんて思えてしまう。
(はっきりコクられた訳じゃないし…)
そう考えると、何となく恥ずかしくなって来た。
「水城ちゃ〜ん!」
はっ、この声は!
少し熱を持っていた頬が急激に冷えていく。
声の主の方へ振りかえると、やっぱり!
水嶋君が体育館の入り口で手を振っていた。