教室に入ると由良はさっさと机に伏して眠りに就く。
「じゃ、先生来たらよろしく。」
真後ろの和真に一言そう残すと、数秒後には夢の中。
起こす時は肩を軽く叩くだけで目を覚ますので、和真はさして苦労を感じない。
今日一日も、いつものように目覚時計として自分の責務を果たす和真であった。
寝ては起こしてを繰り返し、あっという間に放課後。余談ではあるが、由良は授業中は一切寝ない。
「由良、もうじき下校時刻だ。起きろ。」
和真が軽く机を揺らす。
「…ぬぅ、寝足りない。」
由良は机に顎を乗せたまま欠伸をする。
「さっさと帰って布団で寝ろ。体痛くするぞ。」
「…おぉ、実際痛い人の忠告だ。」
「いや、これは姿勢のせいじゃないけどな。」
和真は痛みを思い出して腰を擦る。
「…あのね、なにか甘い物が食べたい。」
「…はぁ?」
「具体的に言うと学校近所の和菓子屋さん。」
由良は半眼で窓の外を眺めながら呟く。
和真はといえば、鋭い目を更に鋭くして由良を見る。睨んでいるわけではない。呆れているのだ。
「…買って来いってか。」
「まだ下校まで三十分あるしね。よろしくー。」
和真の返事も聞かず、由良は再び、眠りに就いた。
十数分後、結局和真は和菓子と緑茶を買って来た。
「ふむ、お団子。」
「恥ずかしかったぞ。いないんじゃないか、真剣に和菓子選ぶ男子高校生なんて?」
何食いたいか聞いてけばよかった、と和真は付け加える。
「ま、無難な選択だね。ありがと。」
笑顔で餡のかかった団子に食い付く。
和真もまた、自分用に買った缶コーヒーに口を付ける。
「食ったら帰るぞ、先生うるさいし。」
「んー。…あのさ?」
「うん?」
「女の子達が話してるの漏れ聞いたんだけどさ。」
「盗み聞きか。」
「偶然よ偶然。」
また、和真はコーヒーをすする。
「あたし達って付き合ってるの?」
「ぶふっ!?」
黒い液体を吹き出す和真。
「汚いわねぇ。」
「待て、なんだその根も葉もない噂は!」
ティッシュであちこち拭きながら和真は怒鳴る。
「さぁ?なんかそう見られてるみたいよ?」
由良は二本目の団子に取り掛かる。
和真はただ居眠りの多い由良を起こす係に任命されただけである。由良自身によって。
(世間一般には付き合ってるのか、それは!?)
冷や汗が、和真の額を流れる。