ぴぴぴぴぴっ。
和真の部屋で、目覚時計が鳴り続ける。
ぴぴぴぴぴっ。
和真は熟睡しており、起きる様子を見せない。
ぴぴガスッ!
時計は、実妹の手によって和真の顔面に叩き付けられ、その鳴動を止めた。
痛む鼻を押さえながら、和真は早目に家を出た。
近所の飼い猫が散歩してるのを眺めながらいつも歩く道を行く。
辿り着いた場所は、由良の自宅。
携帯を取り出し発信履歴の一番にかける。そもそも履歴全て由良の名だが。
3コール。いつもならここで切られる。
今日は5コールで切られた。和真がふと上を見ると、二階の窓から由良が目を見開いてこちらを見ている。
「…来たんだ。」
十数分後、出て来た由良の第一声。
「俺が起こさなきゃお前起きないだろ。」
「大丈夫だって昨日言ったじゃない。」
「現に寝てただろが。」
そして、どちらともなく歩き出す。
「…いいの?こんなことしてたらまた噂広まるよ?」
「…別に、お前と関わり無くしたからっていきなり白木と仲良くなれるわけじゃないしな。」
和真は睨むように空を見上げる。
「それに、目の前でお前が寝てたら放っておけるか。」
「損な性格だもんね、和真は。」
なんとでも言え、と和真は由良を睨む。
「実をいうとさ、和真に起こしてもらうのが当然で、さっき危なく寝過ごすとこだったんだ。」
由良は、にーっ、と笑うと和真を見上げる。
「これからもお願いしていいのかしら?」
和真は、無言で頷いた。
既に、由良を起こす事は和真のライフワークになっていたのだった。
「どうしよう、由良。」
現状維持、となった二人であったが、和真はそうもいかない。噂が誤解であると、少なくとも白木には伝えなくてはならないからだ。
だが、和真も由良も白木との会話経験はなく、只のクラスメイトである。
「…辛気くさい顔であたしの昼寝を邪魔するからにはさぞ困ってるんでしょうねぇ?」
かなり不機嫌顔で由良は和真を睨む。
「どうすれば誤解だと伝えられるだろうか。」
和真は吊り上がった目に出来るだけの困惑を込めて由良を見る。
「…まずあんたは愛想よく他の人と喋りなさい、中身はそこそこいい奴なんだから。」
(あぁ、そこそこ、ね。)
「そもそも、なんで白木さんに惚れてるの?接点ないでしょ。」
「え、いや、それは。」
「くねるな気持ち悪い。」
由良は本気で機嫌が悪かった。