ヤス#49
「ヤスよ!もう大丈夫だ。だが油断はするなよ!」
サトリはそう言うと、龍に飛び乗り、激しい水しぶきを上げて海に飛び込んで行った。
親子は布団の上で抱き合ったまま震えていた。ヤスの唇には飛んできた草が張り付いていた。
「ひっ、ひっ…ヤス…ヤス…大丈夫?」
「うん…ハァ、ハァ…助かったみたいだね」純子はヤスの横で力なく座り込んでいた。自分達に降りかかった超常現象を理解するのに苦しんでいるようだった。
「一体…何が起きたの?」
「さぁ…俺にもわからないよ」
「赤い龍…あれは確かに…伝説の赤い龍。ヤスの話は、やはり本当だった…」
「そうだよ。御床島の守り神…それより…アイの言葉は本当なの?」
「アイの言葉?」
「…うん。俺がお母さんの子では無いと言う事…アイはそう言っていた…」
「ヤスは私の子よ。誰が何と言おうと…ヤスは私の子です。アイの言葉など信じてはダメよ」
「…うん」
純子の強い口調にヤスはそれ以上聞き返す事はしなかった。アイの言葉が頭から離れない。だが、ヤスは母から愛しされている事は十分に理解していた。「ああ…でも、これからどうしたら良いのかしら…」
「お母さん、俺、明日、御床島に行ってみるよ」