「雨が降ってる」 彼女はつぶやいた。 だが、空を見る限り雲一つない快晴。 俺はふざけて、「寒冷前線?温暖前線?」と聞いた。彼女は真顔で「温暖前線に近い」と言った。「どこの地域の話?」俺が尋ねると彼女は黙って俯いた。しばらくしてから、彼女は口を開いた。「心の中」それを聞いた瞬間、俺は笑った。俺は、彼女に 「傘でも差してやろうか?」と馬鹿にした。 それが最後だった。彼女は自ら命絶った。 葬式では、大人どもが口々に「最近の子は何を考えているかわからないわぁ」などと呟いていた。 同級生たちはみんな泣いていた。帰ろうとした途中、彼女の親に一通の手紙を渡された。袋を破き、中身を取り出した。中から一枚の紙がでてきた。そっと開いて見ると彼女特有の字が並んでいた。たったの一行。だけど、その一行に俺は壊された。 「傘が欲しかった」 彼女の雨はたしかに温暖前線だった。雨はいずれ止むが、彼女はそれを待たなかった。 雨宿りをすればよかったのに、彼女はそれを拒んだ。何故かはわからない。だけど、一つだけわかることがある。俺が彼女に傘を差してやればよかったということ。今さら遅すぎるだろうけどごめん。