あの後の事であるが、僕は近くの電気屋へと向かっていた。
お目当てはウォークマン、7980円というリーズナブルなものではあるが、?GBもあれば十分であろうと思い彼女の好きな色を探している。
プレゼントというのはとても選ぶのに苦労するものだ。母親でさえ花屋を五軒近くを廻り、結局特売のカーネーションを三本という地味なものになってしまった。
母親はとても喜んでくれたらしく、直ぐさま花瓶に活けてテーブルの上に飾っていたっけ。嬉しい事に今でもその三本のカーネーションはしおりとして大切に使われているのだ。
思い出にふけっていることに気がつき、ほんのりと顔が赤くなるのを感じた。
目を落として色を選ぶ。今店頭にあるのは、レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ブラックの計五種類。まるで戦隊物の様で少し顔が綻んでしまった。
何色だろうか、彼女の好きな色……。赤?それとも緑?まさかとは思うが黒ってことはないだろう。黄色はなにか違和感を感じた。
残るは青。自分でもとても気になっている色だ。光を反射して、透き通る様な沖縄の海を感じさせている。
自分の彼女に対するイメージを描いてみる。彼女の口調は少し攻撃的な薄い朱色、悪戯好きなハッキリとした緑、辛い過去を隠し持つ黒、毎日勉強に励む努力の濃い黄色……
『いらっしゃいませ』何人ものお客を相手に疲れ切った声を押し出す店員に渡したのは先ほどの青いウォークマン。
僕は彼女の青の一面を見ていない。それはよどんでいるのか?はたまたなんの混じり気もないのか?またどんなときにその色を出してくれるのであろうか。
自動ドアを抜け、吸い寄せられるかのように病室へと向かう足取りは、もはや足下にレールが通っているかの様だった。
出会って間もないが、彼女のいろんな一面を見てみたい。明るいピンクを、薄い紫を、くっきりした藤色を……
それがどんなに汚くても、自分の理解を越えていようとも、ありのままの色を受け止めよう。
今、自分は驚くほどドキドキしている。このドアの前に立つのももう三度目。彼女の待つ場所へと行くため、右手を前に出し、しっかりとハンドルをにぎりしめてゆっくりと力を込めて押し出す。
なんだか僕は、昔の僕とは違い、今、大きく羽ばたこうとしています。