MURASAME

あいじ  2007-05-15投稿
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亞リス?


私が亞リスに出会って…もうどれ程の時が流れたのだろう…私の亞リス…。
愛しい亞リス…。


男は人形を抱きしめると、まるで神聖なものに触れるかのようにそっと髪を撫でた。彼は人形に語りかけた。
「亞リス…。君が愛しい…とても…君がいない世界など…存在する価値がない…嗚呼、亞リス…」
人形は答えない。だが、男の頭にはしっかりと人形の声が響いていた。
暗闇のなか、男は亞リスを愛でた。甘美な快楽を貪るが如く…男には何も見えてはいない。

私ヲ想ッテクレルナラ、私ハココニイル…。
コギト・エルゴ・スム…
我想フ故ニ我アリ…
私ヲ想ッテ…誰ヨリモ強ク…。


蔵王丸はノートを閉じると、目の前の女性に顔を向けた。
まだ若い。だが、何か思い詰めているような、険しい表情をしていた。
「これは…?」
蔵王丸はノートを指差し、云った。
「私の主人が書いた物です」
彼女の名前は角野京子。小説家、角野美彦の奥方であると云う。
「…角野美彦の新作とは思えませんね。まさか…?」
「私も最初はそう思いました。しかし、私は見てしまいました。あの人形を愛でる主人の姿を…」
京子の顔がひきつった。まるで、光のない闇をみつめるような目をしていた。
「焔様…あなたは真柄太郎と云う方をご存知ですね」
「真柄…真柄太郎教授なら、私の師とも呼べる科学者ですが…それが?」
蔵王丸が問い返した。彼女は意を決したように呟いた。
「…この冒頭で行き倒れになった老人…その人物が真柄教授です…」
「なんだって!」
蔵王丸は思わず叫んだ。だが、彼女の瞳は嘘を言っていなかった。
「では、この亞リスを造ったのは…」
「そうです…亞リスの造物主は、真柄太郎、その人です」
蔵王丸は思いだした。教授の研究を。あまりの異端故、学会を追放された呪われし発明…。
「まさか…アリスレス式永久機関…完成していたのか?」



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