亞リス?
「京子…何故…」
「あなた…自分の体を見て…」
私は自分の体を見回す、そして驚いた。私の体は排水で汚れ濡れていた。
「まさか…私が亞リスを…無意識のうちに…?」
記憶が蘇る。亞リスを捨てるとすぐにどぶ川に飛び込み、亞リスを拾い上げた自分を…そのまま亞リスを抱きかかえ、雑踏を歩く自分を…
「私…だったのか…そうか…」
「あなた!そいつは悪魔よ。人の想念を吸い上げ、生き続ける魔人形…」
京子が懐から一枚の写真を取り出す。
そこにはあの行き倒れていた男と亞リスが写っていた。だが何かが違う…私は目の前にある亞リスと写真を見比べた。
「なんだ…これは…大きさが…」
「そう…コイツは幾つもの命を吸い上げ、成長したのよ」
そう云うと京子は包丁を取り出し、亞リスに飛びかかった。「コイツが…コイツがいるから、美彦は私をみてくれない…いなくなれば…いなくなれば…!!」
京子は包丁を亞リスに突き立てた。彼女の背後で角野の悲鳴のような声が聞こえた。しかし、彼女はさらに刃を突き立て亞リスをズタズタに引き裂いた。まるで、人間のような腕が飛び、白く薄い体を刃で幾度も貫いた。角野は胸に手をあて、苦しそうな表情で呻いていた。
「やめろ…やめるんだ…京子…私と亞リスは既に…」
しかし、京子の耳にその言葉は届かなかった。
京子は亞リスの額に包丁を突き立てると角野の方を向き返った。
「あなた!これでもうあなたは…」
だが、京子の前で角野は崩れるように倒れた。
「あなた…」
角野は既に息絶えていた。
何日かたち、警察が角野の死体を発見した。まるで、無数の刃に突き刺されたような凄惨たる死体だった。
だが、おかしなことに婦人である京子はおらず、目下行方がしれなかった。
また、現場には亞リスの残骸も発見されなかった。
それから、亞リスを見たものはいない
亞リス 終