朝、私、日下部佳奈理が何かの気紛れで家を早く出ると、お向かいさんから男の人がほぼ同時に出てきた。
かなり吊り上がった目をしていて所謂犯罪者面。
最近引っ越して来たとは言え、お向かいさんの名前ぐらいならわかる。…えーと、た…なんとかさん。ダメじゃん私。
でも、同じ学校の二年で、一つ先輩と言うのは知っている。なので挨拶。
「あ、おはようございます。」
「ん?あぁ、おはようっす。」
顔に似合わない穏やかな声で返された。
そんな時、近所の飼い猫が私たちの前を横切った。
「「あ、リョウコ。」」
二人の声が重なった。あちらも私をびっくりして見ている。ちなみにちょっと恐い。
「お好きなんですか?」
「あ、あぁそれなりに。」
二人しばらく無言で笑顔を作る。困ったような笑顔だ。
「えっと、リョウコ、行っちゃうよ?」
彼が三毛猫を指差すがあっという間に見えなくなる。
「行っちゃいましたね。」
うぅ、微妙に気まずい。
この顔で、意外と動物好きだなんて知った私はどうすれば。
「あ、日下部さん。俺寄る所があるから。」
「あ、はい。それではまた。」
動物好きから話は少し盛り上がり、先輩はちょっと遠回りするように道を曲がった。
避けられたとは別に思っていない。あの人がいつもどこかへ寄るのはこの付近の住民なら皆知っている。…特に小さいお子さんを持つ母親なら。
それはともかく私の名前知ってるんですね。見習わねば。
さて、放課後の暇潰しの下見の為に今日はちょっと遠回りして見ようかな。
山?川?
夏ですし山ですね。
そうと決まれば磁場が狂うと有名なあの山に…。
「ん?どうかしたのヒロ?急に震えて?」
「いや、なんか悪寒がな。わからんかミク?」
「何がよ?」
「夏場に悪寒がするということは風邪だ、帰る。」
「待ちなさい、走って帰る風邪人がどこにいるのよ。」
「嫌な予感がするんだよぉ!」
「ったくもー、行くわよー。」
「嫌だー、引きずらないでー!」