鬼門?
鬼部村は帝都東京からかなり離れた所にあった。三人は1日がかりで鬼部村に到着した。
「あの…蔵王丸さん…どこまでいくんですか〜」
鬼部村に着いたとは言え、目的地である鬼門まではかなり離れていた。荷物持ちの幸司が早々とねを上げる。
「もうちょいだよ…多分」
和服姿の蔵王丸が軽やかに歩を進める。その後ろから天馬が続いた。
「ほら、あそこに見えてるのが鬼門封じの一族のいる鬼部大社さ」
蔵王丸の指差す先はまだ遠かった。
鬼部大社は鬼部村のような田舎に似合わない立派な寺院だった。その面積は呆然とする程広い。
「……スゴ…」
「ああ…」
幸司と天馬がため息のように漏らした。だが、寺院内は物々しい雰囲気に包まれてどこか物騒だった。
「やっぱり警戒してるね…」
三人は入り口の守番に話をつけ、奥に通された。
「蔵王丸さん…ここはいつもこんなに警戒が厳しいんですか?」
渡り廊下を通る途中で天馬が聞いた。
「いや、普段はそうでもないよ。やっぱり、鬼門開帳が近いからね」
蔵王丸がさらりと答えたが天馬はどこか不足そうだった。
やがて、本堂のような空間で三人は待たされ、しばらくすると小柄な老人が入って来た。
「お久しぶりです。鬼部幻燈斎(もののべげんとうさい)様」
蔵王丸が深々と頭を下げた。
その老人は眼光鋭く、顔面に刻み込まれた皺が只の老体でないことを証明していた。
「久しいな…焔蔵王丸…」
老体が嗄れた声で言った。
「明晩の鬼門調伏の儀、我らが命を賭けて護衛いたします…ところで…」
蔵王丸は幻燈斎に近づき、何か呟いた。幸司と天馬には聞き取れない。
やがて、幻燈斎は頷くと幸司と天馬に視線を向けた。
「そなたらが村雨幸司と安藤天馬か…」幻燈斎の言葉に二人が頷く。
「こっちへ来い…見せたいものがある…」
幻燈斎は立ち上がると二人を手招きした。