居眠り姫の起こし方16(完)

あこん  2007-05-21投稿
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なんやかやと騒ぎながらも、由良は熱気の中昼寝を始めた。
浅く眠る居眠り姫。
なんてドラマが生まれ難そうな光景だろうか。和真はぼんやりと由良を見ながら思う。
眠る由良を起こしたが為に、今日までこの奇妙な関係は続き、きっとこれからも続いて行く。二人の距離が離れない限り。例えば席替えしたり、クラス替えしたり。
しかし和真は思う。例え離れても、由良との関係は変わらないんじゃないか、と。
由良の波長に合う人間は自分以外にいないと思っているし、毎回起こすようなマメな人間もいないだろう。
うんざりと、しかし嫌味なく呟く。
「なんか、俺はずっと由良を起こし続けてそうだな。」
白木の部活の休憩時間が近付く。和真が立ち上がろうとすると眠っているはずの由良が口を開いた。
「まぁ、少なくとも高校にいる間はお世話になるわ。」
「…寝てなかったのか?」
「今さっき起きたの。」
由良は姿勢を正し、シャツの襟をパタパタと扇ぐ。
「在学中っても無理じゃね?来年度とかさ。」
「あれ?知らなかった?この学校三年に上がる時クラス変わんないのよ?」
「へ?」
珍しく和真が目を見開く。
「それに、今の担任席替えしないことで有名だしね、卒業までこのままよきっと。」
「…なんだそら。」
和真は頭を抱えて深く座る。
「ん?行くんじゃなかったの?」
「いや、気勢が削がれた。実際まだ早いし。」
由良は楽しそうに微笑んで和真を見る。
「卒業まで、よろしくね?」
「…なんだろう、卒業した後もこのままな予感がするぞ俺は。」
「和真が起こしてくれるならあたしは安心だけどね、時間ぴったりだし。」
やや間を置いて、同時に笑う。
「…ま、悪くはないか。」
「そうね…そうだ、またあんたがぐちぐち言い出したらあたしは殴る係。」
「で、俺はお前を起こす係か?俺は損しかしてないじゃねぇか。」
「恋の相談もしてあげる、有料で。」
「金とんのかよ!」
騒いでるうちに、和真の最優先する用事の時刻になる。
「お、じゃあ行ってくるかな。寝てるか?」
「うん。あ、和真。」
教室から出ようとする和真を由良は呼び止める。
「帰ってくる時でいいからミルクティー。お金出すから。」
「…ったく、わかったよ。」
由良は机に伏して、和真は廊下を歩く。

今までも、これからも。
居眠り姫と目覚時計は共にあるだろう。

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