「このタイトルで、なんで恋愛ものじゃないんだろう。」
自然と口から漏れた呟きは、初夏の高い空に吸い込まれる。
俺の名は片桐篤(かたぎりあつし)。高校一年生だ。
今、俺はとにかく彼女が欲しい。いや今だけじゃない。入学当初から、むしろ入学前から欲しかった。
中学の時はずっと思っていた。高校生は皆恋人がいるのだろうと。
まぁ実際そんなことはなく。
俺はこの約三か月、寂しい高校生活を送ったのだった。
「モノローグは済んだか?」
俺が一人物思いに耽っている時に話しかけて来たこいつは久保匠(くぼたくみ)。高校に入ってから出来た、まぁ、一応友人だ。認めたくないが。
ツラは、まぁいい。整っている。むしろ男の俺から見ても格好いい。憎い。
「やることがないならさっさと帰るぞ。俺にはやることがある。」
「そう言うな、俺の恋を探そう。」
「言ってて恥ずかしくはないか?」
「かなり後悔してる。」
俺たちは教室を出て、廊下を見渡す。
「可愛い女の子はいないか?」
「尚且つ、お前を振っていない、な。さて、同学年にはいるのだろうか。」
久保は涼しい目で俺を見る。
「ふぅ、こんな不毛なことするくらいなら帰ってエロゲをやるのに。」
「やるなよ高校生。」
久保、見た目に騙されるが生粋のオタクである。
「ギャルゲでは生ぬるい!」
「知るか!」
俺は一般人である。念の為。
「あー、もういい。要望通り帰ろう。まずは便所だ。」
「ならば俺は便所の前で妄想してるとしよう。」
本当に、なんで俺はこいつと友達になったんだろう。
用を足して出て来ると、久保は目を瞑って思案顔だ。見てる分には格好いいが。
「…どんな妄想を?」
「寝起きを襲われた。」
口を開けばこんなものである。
「…む、それより片桐。向こうの女子三人組がお前の事を興味深げに見ているが。」
「なにぃ!?」
振り向けば、確かに三人の女子。キャーと黄色い声を残し、走り去った。
「ま、まさか俺のファンが便所の出待ちを!?」
「いや、今のお前なら男達も興味深げに眺めるさ。」
まさか俺がそんなに有名人だったとは。
「社会の窓から白いモノが飛び出しているからな。」
久保の言葉で、自らの股間を見れば。確かに社会の窓から白いシャツの裾がこんにちは。
「気付いてたろ、最初から気付いてたろ!?あぁもうお婿にいけない!」
くすくす笑い声が響いた。