朝、彼は起きあがるといつもと同じように鞄を持って玄関を出た。
いつもと同じ電車に乗り、いつもと同じ駅で降り、いつもと同じように会社に向かった。いつもと同じ時間に仕事を終え、いつもと同じように会社を出て、いつもと同じ電車に乗った。
いつもと同じ駅で降り、いつもと同じ道を歩き、いつもと同じコンビニでいつもと同じビールとおでんを買った。
いつもと同じように部屋の鍵を開け、虫などいない、いつもと同じ部屋に入り、いつもと同じようにおでんをつまみつつビールを飲んだ。
虫はいなかった。穴はあった。
いつもと同じだった。
今日の彼はいつもと同じように穴を覗く気など起きなかった。
全くしようがない、彼はそう呟き虫で覆われてなどいない床に寝転がった。
虫は彼の目に、鼻に、口に、耳に入ってくることは決してなかった。