たくさんの視線が注がれる中、ロシアンはカウンターに寄りかかりながら続けた。
「そう。ドラゴン。面白そうだろ?」
「確かに。」
「サラが最初おさんぽ中に頼まれたんだよ〜。えらい?えらい?」サラが横から身を乗り出して言う。バンははたと切長の瞳でサラを見ると、
「それはすごい。お前を見て仕事を頼むものがいるとは。」
感嘆して呟いた。
相当キツイが、イヤミではなく本心だということがよくわかるバンの言葉にロシアンは苦笑した。
「そうだろ?そこがおもしろいんだよ。俺の考えが正しければ、かなりすげぇ事になるぞ。」
「ふん。まぁ死なぬようにな。」
バンが薄く笑いながら手をかざす。次に手を引いた時には、カウンターにたくさんのビンが並んでいた。
「効くかどうかはドラゴンの種類と年齢によるが、一応対ドラゴン用だ。」
「とりあえず全部もらう。あと、良い飛び道具ねぇかな。」
再びバンが手をかざすと、今度は呪符やら暗器やらが置かれていた。一つ一つ丹念に調べながら選んでいくロシアン。一通り選び終えると、思い出したように口を開いた。
「あぁ、あとゼウスの銃弾がねぇんだ。」
首にぶら下がっている漆黒の宝玉を握ってからその手をかざす。
次の瞬間、ロシアンの手には銀色に輝く銃が握られていた。
ゼウスとは、ロシアンが常に肌身離さず身に付けている漆黒の宝玉のことだ。どういう原理かは謎だが、その宝玉を握り手をかざすと望んだ武器がでてくるらしい。父親から受け継いだもの―ということ以外はサラですら知らない。
「これには対ドラゴン用の銃弾は入らない。」
バンが小さく呟くと、ロシアンは煙草に火をつけうなずいた。
「普通のでいいよ。」
サラがロシアンを見上げて首を傾げる。
「普通ので大丈夫?ドラゴンちゃんには効かないよぉ?」
「敵はドラゴンだけとは限らねぇぜ?」
煙草をくわえたまま意味深に微笑むロシアンを見ながら、バンは嘆息した。
「人間相手なら大丈夫だろうが、あまり油断するな。お前に死なれたらつまらん。」
「ばーか。俺を誰だと思ってんだ。土産話楽しみにしてろよ。」
不敵な笑みを浮かべたまま、ロシアンが右手を差し出す。
バンも小さく頷き、右手を差し出す。
しっかり握られた手に呪文をかけるかのように、バンが静かに呟いた。
「幸運を祈る。」