恋愛譚

皐月花  2007-05-21投稿
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二年前の七月。私はそれまでの報道記者の仕事を離れて、番組制作の事務を担当する業務部に異動になった。仕事で大きなミスはしていない。むしろ一緒に現場に出かけるカメラマンからは「きっといい報道記者になる」と期待すらされていた。ただ、私が壊れてしまった。それだけだった。今どき珍しくもない「鬱」という病に心を蝕まれた私は、報道現場を離れた安堵感と挫折感で、自分の在り方を迷っていた。
業務部はいわば雑務担当の何でも屋で、定年間近の部長とこれまた定年間近の独身女性との三人所帯だった。部は入社三年目の挫折した若者を温かく迎え入れてくれたが、緩慢な仕事に3日で飽きた。
異動から一週間ほど過ぎたころだった。あまり興味のわかない女性誌をめくっていると、30そこそこの男性が話しかけてきた。「あの、スタッフルームにプリンターが欲しいんですけど」浅黒い肌にヒゲ、やせ形のいかにも「遊んでいそう」な人だった。「え?プリンター?」報道時代、そんなものは誰かが知らぬ間に用意しているものだと思っていた。どうしていいかわからず、上司に仰ぐと、とにかくどれぐらいのものが必要かスタッフルームを見てこいと言う。私は胡散臭いこの男の後について、スタッフルームに向かった。
「ここに小さくていいですから、プリンターが欲しいんです。」明らかに年下の私に敬語で話す男。見た目とのギャップもあり、なんとなく好感が持てた。「わかりました。システム部に聞いてみます」きっと社外のプロダクションから来ている人なのだろう。私の印象はその程度だった。プリンターの設置からほどなく、一枚のミス処理された伝票が経理から返された。起票した社員は「村山和之」まだ社員の席順を覚えきらない私は一覧と照らし合わせて村山の席を探した。探し当ててふと目をやると、プリンターを発注した男が座っている。「あの人社員だったのか」彼に伝票のミスを指摘し、席に戻ろうとすると、彼の席近くの同期が話しかけてきた。「花ちゃん痩せたね!男でも出来た?」「出来ないよ!彼氏いない歴更新中。」「合コン行きなよ」「してくれる人いないもん」その時だった「やるか?合コン」村山が話に加わった。それからしばらく他愛ない会話をして、「合コンお願いしますね!」と会話を切り上げた。村山の笑顔がやけに胸に残り、もう少し話してみたいと思った。それから私の目は気付くと彼を追うようになっていた。



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