「この作風もここまで行くと病気か?」
ふと思い立って口に出した疑問は、初夏の朝の爽やかな風に流されていく。
俺の名は片桐篤。パソコンすら持ってないアナログ人間。異性とのお付き合いもない。
「さぁ、お前を恋愛体質にする為のプランを練って来たぞ。」
この微妙に間違えてるんじゃないか的な日本語を話す美形は久保匠。俺の彼女探しを恩返しと言う形で手伝う自他共に認める世界的オタクである。
「いや、俺は体質改善をしたいのではなくだな。」
「体質が変われば人も変わる。結果、モテモテな君に会える!」
テレビショッピングの煽りのような口調で語る久保。俺には詐欺的商品の押し売りにしか見えない。
教室の窓から身を乗り出して、外を眺める。現実を逃避してるのだ。
「わかった、そこまで乗り気じゃないなら体質の件は取り止めだ。」
「…そうしてくれ。」「ならば俺に出来る事は何もない!さぁ、当たって砕けるんだ!」
「…俺の目的は砕ける事じゃない。」
こいつを当てにしてはいけないと何度も、何度も気付いたはずなのに。なんで俺はこいつが手伝うのを承諾したのか。
「ほら、女子がやってくるぞ。」
一応そちらを見る。
何やらくすくす笑われてるような?
「って!昨日の三人組じゃねぇか!」
「あぁ、窓開放の時の。」
落ち着き払いやがって。
「あ、あの」
弁解の為に声を掛けようとしただけで彼女達は逃げ出した。
「…俺って避けられてる?」
「猥褻物陳列の翌日だしなぁ。」
「直接出てたわけじゃないだろ!?」
何が、とは言わない。
「だが白い物が飛び出していた。」
「変な言い方をするな!シャツの裾が出てただけだろ!」
久保は哀れんだ目で俺を見つめる。
「…卑猥だな。」
「何がっ!?」
声が裏返ってしまった。
「教えろ久保!俺はどうすればいい?失墜した信頼を取り戻すにはどうすればいい?」
藁をもすがむ、とはよく言うものだ。
「落ち着け片桐。信頼も何も、彼女らとは面識がないではないか。つまり、感情値はゼロ。最難関の」
「どっかで聞いたような台詞はいい!」
俺自身は聞いた覚えは無いが。
よく考えてみろ俺。見た目はいいがこの男、オタクの上に変人だ。下手すると俺よりモテないのでは?
そんな奴に相談なんて間違えてるよな?
だが、こいつにはまだ隠された姿があったのだ。