一瞬戸惑ったが、別に取って食われる訳でもあるまいしと思い、あわよくばライター借りれるかもという期待に心が踊った。このベンチからだと砂場を突き抜けて行くのが一番だがバラクーダが何やら虫でも捕まえようと座った状態で上半身だけを起こして両手をバタバタさせていて、何やら忙しそうだったので砂場を迂回して老婆の座るベンチまでたどり着いた。軽く頭を下げたらニコニコと笑ってくれた。
老婆の座っているベンチの横の物体はやはり乳母車で中にはいろんな小物に煎餅にいつからその中にと気になる林檎やバナナ。髪はボサボサなのにヘアーブラシと 当然化粧などしてないのだが保湿液には何故?と当分先まで気になった。もっと気になったのは、自分が座ってる横に置かれてる髪の毛が茶色い毛糸で出来てる少しそばかすのある北欧系の女の子の人形だった。それは少し汚れていておそらく民族衣装だろう服を着ている。たまに小声で何やら話かけてもいる。
手招きされて来たのに僕には微笑むだけで、人形より僕に話しかけて欲しかった。
浮浪者風の老婆と僕と人形という不思議な三角関係に耐えられなくなり無意識にタバコを咥えた。そしたらすかさず老婆がライターを差し出してくれた。そっか、僕のライターガス欠だったと思いだし、老婆はこれを待ってたのかなとちょっと感動した。ようやく人間らしいコンタクトが取れた瞬間だった。